②毎日新聞電子版 平成29年2月9日
答志島漁業毎日新聞2017年2月9日 地方版高齢者を招く 計画を推進、来月始動 水産庁OB・佐藤力生さん /三重
毎日新聞2017年2月9日 地方版
高齢者を招く 計画を推進、来月始動 水産庁OB・佐藤力生さん /三重
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←ワカメの選別作業に励む佐藤力生さん=鳥羽市答志町の和具漁港で
鳥羽市の離島・答志島で3月、繁忙期の漁村の働き手として、都市部から漁業に関心のある高齢者を招く「結(ゆい)づくりプロジェクト」が始まる。仕掛け人は2015年6月、過疎と漁師の後継者不足に悩む答志島へ千葉県から移住してきた水産庁出身の佐藤力生さん(65)。プロジェクトチームの事務局長を務め「漁村では働ける限り頼りにされる。都会で孤独に老後を過ごすより、島で新しい人生を始めよう」と参加を呼び掛けている。【林一茂】
佐藤さんは大分県由布市出身。大学卒業後の1976年、水産庁に上級職で入庁した。現場に軸足を置き、宮崎県漁政課長時代はシラス漁を巡って暴力団と対立するなど「異色の官僚」で知られた。衰退する漁業に心を痛め「定年まで勤めたら、天下りせず、漁業の現場で働く」と決めていた。
退職直後の2012年5月、妻(62)と娘2人を千葉県白井市に残し、鳥羽磯部漁協の永富洋一組合長(73)の誘いで熊野市に移り住んだ。地元漁協の立て直しに尽力し、13年9月に鳥羽市に移り、沿岸漁業の手伝いや県漁連のアドバイザーなどを務めた。答志島に移住してからは鳥羽磯部漁協の監事となり、魚介類の搬送などの手伝いもしてきた。
島は県内で最もワカメの養殖が盛んで、和具地区は46戸が養殖業を営む。そこに目を付けたのが今回のプロジェクト。昨年2月にワカメ養殖業者らと6人でチームを発足させた。「軽作業のワカメの選別などは、老後の生きがい対策にうってつけ」。作業の繁忙期の3月18日~4月21日、3泊4日と6泊7日の両コースを準備した。
同漁協和具支所の中川勝仁支所長(48)やチーム代表の橋本計幸(かずゆき)さん(65)は「プロジェクトは漁業者の我々にも都市部の高齢者にも得になる」と感謝する。
佐藤さんが島のために無報酬でアイデアと行動力を投入し、実現させたプロジェクトの詳細は、公式サイトhttp://www.yuitobaisobe.com/ 〔三重版〕
③伊勢新聞 平成29年2月10日
④YOMIURI ONLINE 読売新聞電子版 平成29年2月11日
←漁港でワカメの選別を手伝う佐藤さん(右)
■離島でワカメ加工体験、シニア募集…移住に期待
三重県鳥羽市の離島・答志島(とうしじま)で3~4月、繁忙期を迎える養殖ワカメの加工作業を体験する高齢者を、地元漁業者が募集している。
ワカメを煮る釜から立ち上る潮の香りは環境省の「かおり風景100選」に選ばれ、風光明媚(めいび)な土地だが、島は人口減に直面している。漁業者は「作業体験に慣れたシニアがリピーターとなり、移住につながってくれれば」と期待している。
島人口はピーク時(1950年)の約4600人から約2000人(今年1月末現在)に減少。ワカメの加工作業には人手が必要で、地元漁業者は、都市部で定年退職し漁業を体験したいシニアに参加してもらおうと企画した。
受け入れるのは鳥羽磯部漁協理事の橋本計幸(かずゆき)さん(65)が代表となり、ワカメ養殖漁師6人で作る「漁村と都市高齢者の結(ゆい)づくりチーム」。「漁村には定年がなく、元気なら70歳代でも現役で働ける幸せを感じられ、充実感が大きい。高齢者に活躍の場を提供できる」と事務局長の佐藤力生さん(65)が発案した。
佐藤さんは水産庁で資源管理推進室長や水産経営課指導室長などを務め、2012年に定年退職。漁業現場を経験したいと、熊野市や鳥羽市の安楽島町などで沿岸漁業やカキ養殖を手伝った。答志島には15年に移り、イセエビ漁やワカメの加工作業、魚市場での競りなどを体験した。 昨年3月には都市部から61~73歳の男女5人を試行的に招いた。ワカメ養殖では簡単な軽作業に多くの時間を割かれてしまうのが課題で、初心者でもできるのを売りに募集。「得難い経験をできた」「80歳を超えても元気に働く姿を見て感動した」などの感想が寄せられたという。 鳥羽磯部漁協の和具浦支所長、中川勝仁さん(48)は、「人が増えれば生産量も増える。移住、定住につながれば」と歓迎する。
体験作業は海で刈り取ってきたワカメを漁港岸壁で選別したり、茎の部分をそいだり。作業小屋では塩漬けしたワカメの茎抜き作業をする。3泊4日のうち2日間作業を手伝う「体験コース」と、6泊7日のうち5日間手伝う「結コース」がある。 今季はワカメの生育が例年より遅く、3月18日から4月21日までの間で参加したい日程を「結づくり」のホームページ(http://www.yuitobaisobe.com)で選び、その1週間前までに事務局に電話(070・1539・7704)で申し込む。 答志島まで往復の交通費は自己負担で、宿泊費は体験コースが1泊5000円、結コースはその半額。作業報酬はなく、土産にワカメをもらえる。(中村和男)
◆答志島=伊勢湾最大の離島。和具漁港では例年2~4月頃、塩ワカメ作りの釜が数十基並ぶ。もうもうと立ち上る湯気で辺りは潮の香りに包まれ、早春の風物詩となっている。JR・近鉄鳥羽駅近くの鳥羽マリンターミナルから市営定期船で15分ほどで和具港に着く。
2017年02月11日 17時55分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
⑤ 中日新聞 平成29年4月11日
⑥読売新聞(三重県版) 平成29年4月18日
⑦ 週刊女性 平成29年5月23日号
UターンにⅠターン、移住ブームで移住者お宅直撃「ぶっちゃけ、どうですか?」
妻とは離れ、ひとり漁村でボランティア
【2拠点生活】千葉⇔三重/佐藤力生さん
●家族構成=妻、娘2人(千葉在住) ●住まい=一戸建て空き家(家賃2万円) ●生活費=保険や税金含め、年間100万円前後 ●移住先の決め手=漁師町への憧れ ●きっかけ=水産庁退職後、仕事でかかわった現場で実際に生活をしてみたくて ●活動=高齢者・漁村体験ワーキングホリデーの運営、魚市場の雑務をお手伝い(賃金なし) ●2拠点生活=10か月半は答志島に、年末年始の1か月半は千葉に帰る。妻も年3回島に遊びに来る。
三重県鳥羽市の離島、答志島。港に降り立つと、ワカメの山を前に黙々と作業する人々の姿が目に飛び込む。夫婦や家族単位で営む漁師は約40軒。海岸沿いにずらりと並ぶ漁師町の光景に圧倒される。
「健康なら90歳のおばあちゃんでも現役。老後という概念がここにはないんです」
漁師の生き方にそう敬意を示すのは佐藤力生さん。
定年退職後、単身で三重県答志島に移住。二拠点生活を送る佐藤力生さん
水産庁を定年退職後、単身で移住。三重県内を転々とし、牡蠣むきなどの仕事を手伝った。答志島に来たのは2年前。こんな意識が芽生えたころだ。
「漁師の仕事そのものにも憧れていましたが、元役人の僕だからできる課題解決の仕事があると気づいたんです」
目をつけたのは、高齢化による漁業者の人手不足。特に毎年春は塩ワカメ作りの多忙期で、カットや茎抜きなど単純作業に追われる。
そこで昨年、離島センターの補助金40万円を元手に、日本初となる『漁業版ワーキングホリデー結』を創設。対象は60歳以上の都会の高齢者。泊まり込みで最大1週間、手伝ってもらう仕組みだ。無報酬で、旅費も自己負担だが、めったにできない体験を目的に全国から高齢者が集まる。
「僕自身、漁村で“人のためになる役割”があることに生きがいを感じた。都会の高齢者こそ、それを必要としているのではないか、と。互助関係が成立すると思いました」
都会の高齢者に生きがいを提供し、漁村も楽になる。その狙いは的中し、計17人が参加。漁業の面白さはもちろん、漁師との交流目当てに、3回参加したリピーターまで現れた。
佐藤さんは、このプロジェクトを移住後すぐには提案せず、1年寝かせたのだという。
「たとえ正論でも、よそ者の意見は誰も聞かない。手伝いをしながら“ただいつもそこにいる”1年を過ごしました。地域の役に立っていれば、いつか受け入れてもらえます」
移住当初から変わらず、市場の荷出しや競りの片づけなど島の雑務を自主的にやる。そして夕方になると漁師小屋の飲み会にひょっこり顔を出す。酒で饒舌になる佐藤さんは、漁師から“お調子者、変わり者”と笑っていじられる。 「あいつはひとりもんかい?」とウワサも立ったが、実は千葉の実家には妻がいて、2拠点生活中。年末年始の1か月半だけ千葉に帰る。一方、千葉でパートの仕事をする妻も、年3回、島に遊びに来る。
「定年退職後すぐ、女房とイタリア旅行を楽しみました。でも、やっぱり役人をしていたころから“現場(漁師町)をもっと知りたい”という思いがあってね。女房が来ると、漁師さんが言うんです。“旦那が手伝ってくれて助かる”って。さんざん好き勝手してきて、諦められたのかな(笑)」
参加者の60代女性2人は大学時代の友人。「新鮮な体験ばかり」と笑顔を見せる
島に妻を呼び寄せるつもりも、ここで一生暮らすつもりもない。そう強調する。 「健康な身体じゃなくなったら、千葉に帰るつもりです。現役時代の約36年、税金を納めた都会に世話してもらうのが筋。島に迷惑をかけたくないですからね」
佐藤さんの脳裏にはいつも、漁村で出会ったひとりの老女の姿がある。生涯働くこと、死ぬまで役割のあること、その喜びを、語らず背中で教えてくれた人だ。
「押し車につかまらないと歩けないほど弱っていたおばあさんが、座ったまま魚の選別作業をするんです。亡くなる日の朝まで毎日。十分働いたんだから休めばいいのにと思いました。でも、充実した老後の過ごし方とはこのことか、って後になってわかった」
人の役に立つ。それこそが人間が幸せを感じる最高の道。
スタートしたばかりの『結』の展望をこう明かす。
「常時10人手伝いに来てくれる状態を目指します。それで漁業の仕事が回るようになって初めて、若い人が安心して移住して来られる。今はまだ後継ぎが来ても、厳しい現実があるだけですから」
今年、佐藤さんの活動に注目した鳥羽市から「移住・定住希望者の体験コースも作ってほしい」と依頼があった。親子や、漁師志望の若者計7人が参加したという。先の未来も見据えた挑戦はまだ始まったばかりだ。